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平成東條日記「壬生漬けと大日本帝国の戦略」

「日本が戦争する理由だと?」
東條さんが、さも驚いたと高い声をあげた。
「はい。そう言いましたが」と、三浦が繰り返す。おそるおそるという感じか。
東條さんは、しかし、ためらうことなく答えた。
「帝国が戦争する理由などない」
東條さんがつづけた。
「帝国の大戦略は、自存自衛である・・・」
三浦がさかんにまばたきしている。なにかとかぶったのだろう。既視感というやつだ。
「つまり、独立の維持と発展の継続だ。
それに必要なものは、
一に、防衛。本土、満州、朝鮮、南洋とその周辺の安定。これが軍事だな。
二に、外国に対して、資源輸入の安定と市場の確保。これが外交。
三に、殖産。基礎技術の輸入、工業と農業の振興、進展。
最後に、国内。治安維持、世論の安定は内務だな」
しごくまともである。
「以上はすべて平和裏に成就できる。満州国が成った今、戦争をする理由などない」

東條さんが言い切った後、しばらく誰も言葉を発しなかった。三浦が噛む壬生漬けの音が、しゃきしゃきと響いた。山本が、先を促すように中島を見た。しょうがないなと、中島が盃を置いた。
「正論ですね、東條さん」
「そうであろう」と、東條さんは愉快げに盃を干した。そして、注げとばかりに、その盃を三浦に突き出す。三浦は両手でお酌した。
「幾分足したほうがいいものもありますが、まず国家戦略としては完璧でしょう」
東條さんは、まだ機嫌よく、「足りないものには、何があるか」と聞いてくる。
「財政と内政両方の意味で、地租改正や小作料などの農業・農村対策は急務でしょう」
「ふむ」
「それと、治安の面では、雑誌はともかく新聞とラヂオは監視する必要があります。支那事変以後の新聞は、偏向・捏造・虚報・煽動がひどすぎます。これは防諜面にも関わります」
「なるほど、防諜か。しかし、言論を規制すると、何かとうるさい」
「はい、やり方には工夫が必要でしょうね。直接の取締りには反発が大きいでしょうから、間接的なものとします。政府あるいは内閣で広報誌としての新聞を発行したらどうでしょう?」
「官報や公報はすでにあるが?」
「いや、例えば首相の談話とか、大臣の政策説明とかを紙面の中心にした新聞です。談話や外交事実などをそのまま印刷するだけですよ。国民は、国営新聞で事実を確認したうえで、好きな新聞を読めばよい」
「なるほど。重要な政策や談話は、新聞社の勝手にさせないと言うわけだな」
「はい。これだけでも記者は大きな牽制を感じる筈です。あと、できれば放送も国営を持ったがいいでしょう。日本放送協会に別枠を確保でもいいですが」
「ブン屋が政府や軍に出入りする理由は半減するな、それで。防諜はそれだけで十分かな?」東條さんは、顔は中島に向けたまま、右手で盃を三浦に突き出す。三浦が、また両手でお酌した。
「戦略レベルではこんなところでしょう、あとは各官庁が。新聞記者や作家の身上調査ぐらいは、黙っていても内務省がはじめるでしょう」

「あの」
突然、三浦が手をあげたので、みんな振り向いた。
「なんだ?」
「いや、ほら、防諜だったら、情報戦でしょ。情報局は?」
おおーっ、と皆がうなづくと、三浦は盃を掲げてみせた。
「昭和15年の創設では遅いし、実務は、中島が今言った世論や思想の監視と誘導だけだったでしょ。そうじゃなくて、情報の収集や分析は、国家で統合しなくていいのかな」
「僕は難しいと思いますけど、東條さんどうですか?」中島は、東條さんに振った。
「まず一番に、情報収集、諜報を政府に頼るというのは、陸海軍も外務省も承知しないだろう。一元化するということは、情報源が1つということにもなるし、それはそれで危なっかしいと思う」
「出先は、加工前、分析前の生情報を欲しがるということですね」と、情報処理技術者の肩書きを持つ中島が頷く。
「それもある。いま1つは、統帥とのからみだ。大本営を今の形で残すかどうかはこれから議論するところだが、やはり作戦するには情報が必須だ。私は、情報分析と諜報指示は統帥部が握るべきだと思う」
「それはちょっと。作戦部が情報を恣意的に解釈することを防げないのでは?」
三浦が反論する。
「うん、そのとおりだが。山本、統帥とか組織の話にこのまま入るのか?」
「あ、そうですね。ひとまず国家戦略は完成ということで、一区切りしましょうか」
と、山本が引き取った。そろそろ壬生漬けの次が欲しい頃合である。
ちょっと冷蔵庫を覘いてくると、山本は出て行った。三浦は、1升壜を持って燗つけ器の蓋を開けたところだ。
そこで、中島は気づいて三浦に声をかけた。
「おい、三浦。おまえ、戦争の理由がどうとか聞いていなかったか?」
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